One Shot Stories

新宿の路地裏のBar Up to You が贈る ~1杯のお酒が紡ぐ、ちょっといい話~

Vol.10 「逆上がり」/浦霞林檎

ドアを開けたとたんに、小さな修羅場が飛び込んできた。「放してよ!大丈夫だって言ってるでしょ!」「ゆうちゃん!もう10時なのよ。子どもが出歩く時間じゃないでしょ」「なんだ?どうした?」勇樹のジャンバーの袖を掴んだまま、妻は「おかえり。ねえ、言…

Vol.9 「ずっと」 /清水 楓

アラームを止めたのは覚えているのにその後の記憶がない。目が覚めた時にいやにすっきりと頭が冴えていた。やった!と一瞬で分かった。案の定、起きなくちゃいけない時間はとうに過ぎていた。結衣は最低限の準備をし、足早に家を出た。昨夜は少し飲み過ぎて…

Vol.8 「便箋」/北海ミチヲ。

拝啓 依子様 季節がすっかり春めいてきましたね。いかがお過ごしでしょうか。 今年の春は、例年にない暖冬のためでしょうか、あの家に通う道の河津桜がいつもより早咲きに感じます。 目には鮮やかなピンクが飛び込み、春を感じているのに、躰はダメですね。…

Theme Ⅲ〝強い意志、いつも希望を捨てないあなたへ〟

コロナウィルスの影響で不幸にもお亡くなりになられた方、感染された皆様方には、心 よりお見舞い申し上げます。こういうことが起きるといつもの緩やかな日常がとても幸 せなことなんだと思います。 しばらくお休みをいただいていたOne Shot Storiesも再スタ…

Vol.7 「ミドリさんはお休みです」     /浦霞林檎

客が帰ったカウンターの、小さなキャンドルを吹き消して、雛子は窓辺に立ちました。東京の夜景のきれっぱし。街の明かりが瞬いています。どこにあるんだろう、私の場所は。私を受け入れてくれる光はどれなんだろう。 ― やれやれ、ジプシー。7軒目の物色かい…

Vol.6 「HACHI」 /北海ミチヲ。

七江は、この古風な自分の名前がどうも昔から好きになれない。 最近ではテレビに出そうなほど珍しい7人兄妹の末っ子、父が東京に単身赴任していたときの子供で、父はよく、〝では、お江戸へちょっくら行ってくる〟が口癖だったらしく、七江とついたと聞いて…

Vol.5 「Depart again」 /清水 楓

「お待たせ。ごめんね、急に仕事入って」 「気にするなよ、いつもの事だろ」 「そうよね、いつもの事だよね」 笑顔を作ったが、玲はいつもの事と言われて少し落ち込んだ。そう、毎回と言っていい程、翔との待ち合わせには遅れていた。キャンセルになった事も一度や…

Theme Ⅱ〝しばしの別れ〟

台風被害に遭われた皆様には、心よりお見舞い申し上げます。 さて11月のテーマカクテルは、「ジプシー」です。 カクテル言葉は、「しばしの別れ」。 ウオッカベースのショートスタイルでいただくカクテルです。 ほんのりと甘く、それでいてピリッとしたとこ…

Vol.4 「父さんのお酒の教室」     / れっとあんばー

私は名雪。晴れてお酒が飲める年齢になった大学生だ。父の教えで、大学、高校とお酒を勧めてくる人は人殺しと同じなんだぞという教えから、今まで一度も・・・甘酒はあるかな?アルコールを飲んだことがない。そんな私に父は翌日休日だからと、デートに誘っ…

Vol.3 「非情階段」 /北海ミチヲ。

「ねえ、いったいどうしたら、僕の気持ちをわかってくれるんだよ」 僕は、またもや、この台詞を言いだしそうになって、グッと飲み込んだ。先週の金曜の夜もそうだった。楽しく、他愛のない話題と、食事をしながら過ごしていたと思ったら、また、5年前のあの…

Vol.2 「赤いドレスとチョコレート」 /浦霞林檎

靴音を吸い込む厚い絨毯の通路。低く流れる管弦楽のBGM。連なる小さなシャンデリアより、ショーウィンドウの煌めきが、フロアの照明を担っている。早苗は、その店の奥の壁面にかけられた服に目を止めた。あれかもしれない。やっと見つけた。胸が高鳴ってくる…

Vol.1 「蓮と猫」 /清水 楓

最近流行りのタピオカミルクティーを売る店の前には長い行列が出来ていた。若い女の子達が写真を撮りながら順番を待っている。その店の裏手の細い道に入ると、まだ明るいのに薄暗い路地が延びている。湿った空気が流れた別世界。ウイスキーの空き瓶やゴミ箱…

ThemeⅠ〝恐れを知らぬ元気な冒険者〟

10月のテーマカクテルは、「ジャックローズ」。 1900年代初頭のニューヨークで生まれたカクテル。映画「カサブランカ」や「麗しのサブリナ」で有名な俳優ハンフリー・ボガードも愛したカクテルとしても有名。 カクテル言葉は「恐れを知らぬ元気な冒険者」。…